富津の二世帯住宅 〜12の箱と隙間で〜

作品情報
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富津の二世帯住宅 千葉県富津市
  • 設計担当:納谷学、渋谷真弘

  • 構造設計:佐藤淳構造設計 佐藤淳

  • 施工会社:サンヨー建設 工藤洋史

  • 構造形式:木造在来工法(2×4、6)

    竣工年月:2008年11月

  • 敷地面積:390.21m² (118.18坪)

  • 延床面積 : 150.00m² (45.45坪)

  • 受賞歴:第30回INAXデザインコンペ 入賞

  • 掲載誌:『Discover Japan Vol.4』     間取りの○と×/エクスナレッジ

  • テレビ:『渡辺篤史の建物探訪』

富津の二世帯住宅 千葉県富津市

敷地は、千葉県の内房 富津市の岩瀬川沿いに位置する。

クライアントからは、もともとテナントで貸していた店舗を建替えて、開放的で風通しの良い明るい二世帯住宅を要求された。

クライアント家族は、代々この地に住み、近隣に親戚や幼い頃からの友人も多い。

普段からご近所とも付き合いが多く、畑で取れた野菜を留守の間に玄関先に勝手に置いていったり、漁港で揚がったばかり魚介などをお裾分けしたり、最近の東京ではすっかり見かけなくなった物々交換がいまだに日常的に行われている。

敷地前面道路は、千葉のローカル線である内房線と平行して走る国道であるためか、全国どこにでもある地方の田舎町の趣とは裏腹に、意外と交通量が多い。

また前面道路は、敷地を斜めに横切るため、車で千葉方面からくると敷地の端の部分しか見えないが、敷地南側にあたる外房方面からくる車からみると、計画敷地がほぼ正面に見える。つまり、岩瀬川に架かる橋側からは、敷地が丸見えになってしまう。

明るくて開放的な住宅の基本である南側の採光を安易に計画すれば、道路側からの住宅のプライバシーは、守れない。また交通量が多いため、音やホコリの問題を持ち込むことになる。いつもカーテンで閉じられている窓は、この富津には似合わない。

われわれは、この敷地の周囲の環境を読み込みながら、千葉の内房らしい住宅、穏やかな風が流れ、彼らの近隣を含めた人間関係をこの先も代々継承していくための、そしてどこかのどかな住宅の佇まいをイメージした。

家族の中心は、リビングである。二世帯が共有し、親戚や友人、みんなが集まる。

みんなが集まるには、二階建てより平屋の方が集まりやすい。そして、何よりも富津らしい。

ただし単純な大きな平屋計画では、中心部分に光は届かず、風も抜けない。

周囲の道路からプライバシーを守りながらも閉鎖的にならず、大きな平面のどこにでも光と風がゆきわたるような計画にしなければならない。

われわれは、みんなが集まるそのリビングを中心に木々が光を求めて枝葉を延ばすように、リビングに関係する諸室を連続的に周囲に少しだけずらしながら展開させた。

そして、枝葉上に延びた12の諸室の隙間をそれぞれの諸室の用途と照らし合わせコントロールした。

つまり諸室の隙間を、それぞれの部屋の用途に呼応するようにテラスやデッキ、つぼ庭といった機能を持たせ、それぞれの部屋に光と風を導くことが出来るようにしたのである。

12の諸室はそれぞれの用途に相応しい広さと天井高を備え、大小さまざまなだがシンプルな矩形の箱の連続として展開していく。

そして、その矩形の箱に開けられた開口は、箱の隙間である外部空間を介し、その先の箱と関係するように配慮した。

たとえば、親世帯からは中庭を通して子世帯の様子を伺い知れ、子世帯側からも親の気配を感じ取れる。キッチンからは、母親がデッキを通して子供に声を掛け、子供もまた家族の安心を得る。道路から直接内部が見えないように玄関を配し、浴室からは坪庭を介して月が見える。そして、相変わらずご近所さんは、勝手に中庭まで入って来て挨拶を交わす。

街と住宅の関係、近隣との関係、親世帯と子世帯の関係、個々の部屋と部屋の関係・・・、住宅に起こりうる様々な関係を、連続する矩形の箱とその間に生まれる隙間(外部空間)と開口によって富津らしい二世帯住宅として提案したい。

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