音楽室のある住宅 〜個室に囲まれて暮らす北国の住宅〜
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設計担当:納谷学、太田諭、冨田恵
構造設計:多田修二構造設計事務所 多田修二
施工会社:大高建設 後藤忠
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構造形式:木造在来工法 平家
竣工年月:2021年3月
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敷地面積:452.09㎡(153.71坪)
延床面積:137.12㎡(41.48坪)
北国の地方都市の駅前住宅地、旧国道から北に入った突当たりに敷地があります。
東京のような高密度でもない住宅地で、すぐ近くにはローカル線が通り、川が流れ、山々が連なります。南に開くと旧国道側から丸見え、残りの3方向の周囲は、隣家に囲まれています。
そんな土地に大きな屋根一つの平家は、町のスケールに合わないと感じました。
周囲の住宅は、隣り合う住宅や小屋が敷地境界線からルーズな距離を持っています。それらを繋ぐアプローチや庭があるように、小さな単位の空間があってそれらを繋ぐ余白の空間があります。
この土地に建つ住宅は、北国の冬の寒さゆえに開口部の小さい比較的周囲に閉じた箱として建ちながらも、周囲の小さな家並みに寄り添えた時、クライアントの望む静かな落ち着いた生活とうまく重なる様に思えました。
それを叶えるのに、住宅に4つの小さな箱を見つけました。
2つは個室、3つ目は浴室などの水周り、そして4つ目はクライアントの趣味の部屋です。
クライアントの趣味は、音楽、演奏すること、聞くこと、歌うこと。
そこで音楽室が欲しいということになったのです。音が反響しない様に平行な壁は避け、床と天井も同様の作法で考えます。そこで、台形の平面と断面がおおよそ決まりました。天井への音を乱反射させるように、そしてそのまま構造体として表出できるように、構造用合板による面的な形状で造ることを考え、立体トラスを合板で補強する構造体にたどり着きました。
2つの個室と水周り、それと音楽室の4つの箱を敷地の四隅に配置し、3つの箱の天井の構造体として個性的な音楽室の天井と肩を並べるように、三角断面の梁や三角錐の連続梁を採用し、それぞれの箱の天井に少しだけ構造の造形的な個性を持たせました。
4つの箱に囲われたスペースを街の広場のように扱い、箱と箱の隙間を街の通りの様に見立て、そこに住宅としての機能を担わせることにしました。中央の広場はリビングやダイニング、音楽室と個室1の隙間は玄関、個室1と個室2の隙間は書斎コーナー、そして個室2と水周りの隙間は少し広めでキッチンというように。
広場や隙間は、内部ですがインテリアとしての設えを避け、箱の外壁をそのままインテリアに持ち込んでいます。外部なのに、たまたま内部になったような、内部だけど荒々しい外部であり続けたいような。
そのほうが4つの箱の独立性が高まり、間に囲まれた広場がまさしくクライアントのプライベートな広場になると考えました。広場の床はフロアレベルを掘下げてモルタルで仕上げ、天井の構造は箱で使った面的な表現は避けLVLの梁による線的な表現を選択しました。
4つの箱と箱に囲われ間に挟まれた流動的な空間は、近隣の住宅や小屋の隙間と同様に、箱の隙間から入る光や風を受け止め、クライアントの静かで落ち着いた生活に寄与することを期待します。
〜北国の生活〜
北国の住宅は、冬の過ごし方に委ねられています。断熱を考慮するなら、一般的に窓は小さくなり、部屋は暗くなります。しかし、そういう生活は必ずしもネガティブなことではないと思います。
静かで落ち着いた生活環境が、その家族の内面を豊かにすることも幼い時から経験してきました。そこで、個室に囲まれ中央に位置付けられたパブリック性の強いリビングは、北国の厳しい冬に対応できると考えました。
「音楽室のある住宅」は、4つの個室の箱が流動的な場と隙間を提供し、そこに居場所を与えました。個室は必要な大きさで平面が決定され、敷地の中で自立し、固定的で能動的な空間の塊と捉えることができます。 一方、個室に囲まれた場は個室の配置で変化する、つまり流動的で受動的と考えられます。個室(能動的な空間)が場(受動的な空間)を囲って隙間を生んでいるこの構成は、プライベートな空間がパブリック性の強い空間を生み出しているとも言えると思います。
丁度ヨーロッパに見られる建物に囲われた広場を縮小したかのように。