406号室 〜木質ワンルームに架かる橋〜
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設計担当:納谷学、大岡慎一郎
施工会社:今野工務店
築年数 :31年
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建築用途:賃貸住宅
竣工年月:2002年7月
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延床面積:58.59m²(17.72坪)
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コラム :ALL ABOUT
掲載誌 :『Archi+Decor No.2』
『新建築 住宅特集 2003.02号』
『TITLE 2002.11号』
『Lives 2002 Vol.06』
『Smile 2002.09号』
『こんな家に住みたい 2002.06号』
『建築家の仕事』
新建築 住宅特集2003年02月号より
小田急・狛江駅近郊に、築31年におよぶ鉄骨ALCの分譲マンションがあります。
その一室を賃貸マンションとして、再生すべく最低限のリノベーションを施すこととなりました。当時の間取りは3DK、DKを除く3室が和室でした。家族構成や生活スタイルが変わり、住空間も変化を要求されます。オーナーの要望は、なるべく若い人に提供したいとのことでした。
間取りの基本的な考えは、ワンルームのように広く使え、スペースの場所によってプライバシーのヒエラルキーがつけられればと考えました。しかし、プライバシーの高い順序でただスペースを並べたのでは、個々の空間が自立あるいは孤立しすぎると思いました。
もっとルーズに曖昧に柔らかく、そしてさりげなく引き離し、つなぎ止めたい。
そこで、与えられた空間全体に新しい生活を受止めるように、28mm厚のダグラスファーを手のひらで包み込むように貼りあげ、包み込まれたスペースの中央にこの住戸への(社会へのあるいは社会からの)アプローチを延ばし、2分された両側の空間を干渉しあう領域をつくりました。マンションの一室という性格上、扉一枚で社会へとつながりますが、この領域は、住戸内の空間を2分し曖昧に干渉させると同時に扉の向こうの社会との接点でもあります。つまり、社会と住戸(個人)をつなぐ架橋でもあるのです。
2分された空間の片側はオープンなLDK、もう片側は、寝室・トイレ・浴室などのプライバシーの高いスペースです。片側の空間からは曖昧なアプローチ領域を通してもう片方の空間の気配を感じ取ることができます。曖昧な領域は、時には閉じたり開いたり、両側の空間と必要に応じて解放性・閉鎖性を変化させます。連続したり、遮断したり、少しだけ開いたりして・・・。
こうして組上げられた住戸がどこまで時代の流れについていけるかわかりませんが、借手の生活スタイルや使い勝手に緩やかに変化できれば、少しだけ時代の変化に長く対応できるのでは、と考えます。そして現在起こっている無数のリノベーションの在り方の答の一つになればと思います。