綾瀬の住宅 〜築70年に暮らす〜
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設計担当:納谷学、太田愉、塚越祐介
構造設計:長坂設計工舎 長坂健太郎
施工会社:小池工務店 浦口雄一郎
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構造形式:木造在来工法
竣工年月:2010年10月
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延床面積:208.41㎡(63.04坪)
1階床面積:155.46㎡(47.02坪)
2階床面積:52.95㎡(16.02坪)
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受賞歴 :住まいの環境デザイン・アワード2011 住空間デザイン優秀賞
テレビ :辰巳琢郎の家物語 リモデルきらり
掲載誌 :『婦人画報2011年12月号
『TWELEVE HOUSES RESTORED IN JAPAN AND ITALY』
『住宅リノベーション入門』
『日経アーキテクチュア2011年5月10日号』
『Casa BRUTUS 2011年2月号』
『新建築 住宅特集2011年6月号』
「築70年くらいの母家に住めますか?」
というクライアントの問い合わせがありました。
話を聞くと、本家で親戚も集まるからできるなら壊したくないという。
以前、築150年を超える古民家を秋田でリノベーションした経験から、
「出来ます。」
と即答しプロジェクトが始まりました。
玄関正面の仏間には一切手を入れず、隣の続き間を大きなワンルームに変えてLDKに、寝室をその上にして吹抜けを介してリビングと繋がるようにしました。
吹抜けには新しい梁を入れて水平ブレースで補強し、鉛直方向の壁は外壁側の壁には手を入れず、内側の壁を構造用合板で固めようにしました。
真壁の古い箱の中に大壁の新しい部屋が納まっているイメージです。
現代の新しい生活とこれまでバトンを繋いできた築120年の母家が共存する新しい時代のリノベーションが出来ました。
『新建築 住宅特集 2011.6号』のTEXTより抜粋
〜築80年木造住宅の未来〜
計画建物の界隈は、東京の古くからの住宅地だったため、比較的敷地に余裕がある住宅が建ち並ぶ。しかし最近では、デベロッパーやゼネコンの開発によって高層の集合住宅へと建替えられている。
「綾瀬の住宅」は、東京で数少なくなった典型的な日本の住宅である。われわれは、新しい住宅の在り方として、相反する空間の融合を試みることにした。つまり、古典の維持と修復に終始するのではなく、かといって古典的な様式をすべて現代のスタイルへと変換するのでもなく、古典的な空間に現代の新しい空間を重ね、隣り合わせ、これまでにない空間の新しい回答を得ようというものである。どちらかに重きを置くのではなく、それぞれを等価に扱いお互いの空間を高め合い引き立たせる、そんな空間が実現できるのではないか。
日本の木造住宅は、真壁が主流である。外側は既存の真壁をそのまま残し、その内側は真壁の上から構造用合板(OSB)を貼り、大壁として耐震補強した。既存の木造軸組の中に、入れ子状に壁を配して構造補強するイメージである。それによって、外側は本来日本の軸組構造が持っている開放性を失うことなく庭と繋がり、内部空間は新しい現代の生活のための空間と変わる。また、外部との間に空気層をつくり、家全体の熱環境を整えることも可能にした。
玄関前の仏間は、そのまま残した。仏間からは障子の向こうに新しいモダンな生活が見え、新しいリビングからは切り取られた絵のように仏間が見える。古典を通して現代を、あるいは現代を通して古典を見る。
廊下の外側は古典的な真壁で、内側は現代の大壁である。その狭間を日常的に通過し体験する。階段の片側は古典で、もう片方は現代。二つの時代が向かい合い、時代を超えて混ざり合い未来へ向かう。
「綾瀬の住宅」は、構造補強をデザインの手がかりに、同時に共存しないはずの構造の様式を等価に扱い隣り合わせる、まったく違う未来の住宅の提案である。