経堂の住宅 〜テラスに寄り添う〜
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設計担当:納谷学、津田野恵
構造設計:かい構造設計 寺門規男
施工会社:高石建設 小林泰治
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構造形式:木造在来工法2階建+ロフト
竣工年月:2007年2月
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敷地面積:129.50m²(39.17坪)
延床面積 : 119.25m²(36.07坪)
1階面積 : 64.60m²(19.54坪)
2階面積 : 54.65m²(16.53坪)
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掲載誌 :『気持ちよく暮らせる間取りのルール』
『住みCoCo 2007.05.26号』
『DETAIL japan 2007.06号』
『メルセデスマガジン 2007.03』
掲載WEB:10+1(https://www.10plus1.jp/monthly/2007/03/30170027.php)
敷地は、ディベロッパーにミニ開発された一区画。
土地の区画所有者が互いに持ち寄り作った私道を中心に6世帯ほどが集まる開発の中にあります。東西に長く隣戸間が狭いため、プライバシいーを保ち外に解放性を求めるのは厳しい場所です。
そこで、1階に寝室などのプライベートスペースを、光りを取込みやすい2階に敷地に沿って東西に細長いテラスを用意し、そのテラスにLDKなどの居住空間が寄り添うようにしました。
テラスに向かうのではなく、寄り添うことで2階のどの場所でも光が部屋の奥まで回る住環境を得ています。一見クローズな外観の住宅ですが、プライバシーが守られた住宅の中には光が溢れています。
『DETAIL japan 2007.06号』のTEXTより抜粋
〜立体コートハウス〜
東京の住宅地では、土地の売買が、土地を細分化して切り売りするかたちで市場に出回るのがあたりまえとなっている。比較的住環境が整っているエリアもいずれ細かく切り刻まれ、住宅が密集していくのであろう。都市圏では住宅地での街づくりが早くからテーマになってきたが、現実は今だに経済ベースの不動産事業が街づくりの方向性を握っている。
「経堂の住宅」の敷地も切り分けられた敷地のひとつだ。見た目の全面道路はじつは自分の敷地で、その辺りを使う何軒かがお互い敷地を提供しあい、協定を結んで道路のように使用する。
だから、敷地はわりと素直な長方形にいびつなコブがついたような形状となっている。そしてその比較的素直な長方形いっぱいに建てるとコブを含んだ敷地全体の建蔽率をほぼ満たすようになっている。われわれの計画もその素直な長方形の部分の敷地をできるだけ有効に使い切ることが求められた。しかし、そこを有効に使い切るということは、おのずと隣戸間の距離が近くなり、良好な住環境が期待できなくなることが予想される。つまり、ほんらい住環境を整えるための建蔽率の制限が、民間の不動産的手法の前では必ずしも機能していないのである。
「プライバシーを守りながら開放的に」は、都心では毎回付きまとうテーマだ。通常なら、南側に庭やテラスを用意して、そこに向かってリビングやダイニングを計画するのが定石かもしれない。しかし、南北に長い敷地でそのように計画したのでは、外に向かって住宅を開くことになり、南側からのプライバシーの確保が難しい上に、北側のスペースに十分なひかりを導けない。そこで、一旦有効な敷地部分を最大限に囲い込み、その内側の長手方向に細長いコートを用意した。その南北に長いコートは、1・2階と階層を換えて連続させる。ちょうど立体コートとでもいうのだろうか、1階では玄関アプローチ、2階ではリビング・ダイニングからつながるテラスとして機能している。また、プライバシーの高い浴室も囲い込まれたコートに開放的になるように計画している。
それぞれのスペースには周囲の隣戸のせまる気配は消え、コートや開口部で切取られた空だけがこの住宅の環境を周囲の環境の変化とは関係なく約束する。このように立体的に囲い込まれた空間内部では開放的で、周囲とは関係なく空を切り取り自然のひかりを享受することは、都市生活のひとつのスタイルになるのかもしれない。
「経堂の住宅」実務編
「経堂の住宅」の立体コートの実現には、鉄筋の水平・垂直ブレースを多用している。立体コートは場所によって最大で約5500mmの壁が立上がり、風圧を受ける。そして立体コートと内部の吹抜け空間の開放性を確保するため、なるべく細い部材で応力を伝える必要があった。そこで建築本体は在来工法の木造だが、露出する部分は鉄筋ブレースを採用することにした。
また、「経堂の住宅」の住空間を豊かにしているものに、立体コートのほかにもう一つ小さな空間がある。それは、食堂の上に位置する和室である。もともとこの部屋は客間として要求されたが、使用頻度を考え日常的に楽しめる空間を探った。したがって少し遊びがある。
和室内部全体は構造用合板のOSBで包み込み、天井高を1800mmに抑え、にじり口のように絞り込んだ出入り口と600角の開口部を二つ用意した。二つの開口部は、内側で面一で閉じ、ひかりが漏れないようにした。出入り口は、普段は開放しているが、閉じたい時にはワーロン紙の照明カバーが障子の代わりになる。出入り口の床には鉛を貼り、照明器具は一切設けず、出入り口の照明がワーロンを通してわずかに和室を照らす。和室へのアプローチはリビングの片隅からのラセン階段にして、常用する階下の鉄砲階段とは性格を変え、和室をさらに非日常的な空間へと演出した。
住宅が機能として必要とされる空間だけで構成されるのではなく、この和室のように小さいながらも非日常的な遊びの空間を備えることで、この和室だけではなく住宅全体が豊かになることにつながればと考えた。