サッポロアパートメント 〜交差するバッファースペース〜
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設計担当:納谷学、相田宗徳、島田明生子
構造設計:多田修二構造設計事務所 多田修二
施工会社:福島工務店 鈴木基也
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構造形式:地下1階RC造+1・2階木造
階 数:地下1階、地上2階
世帯数 :9世帯
竣工年月:2008年3月
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敷地面積:209.328㎡(63.2坪)
延床面積:262.91㎡(69.3坪)
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受賞歴 :JIA北海道支部住宅賞2009 アカシア賞受賞
掲載誌 :『新建築 2008.08号』
『建築技術2008.12』
札幌に計画した9世帯のアパートです。
北国の生活は、冬が厳しいため開口部が小さい居住スペースになりがちです。
開口部を大きく造っても熱環境を整え、居住者の生活を豊かにする計画ができないかと考えました。
そこで、四角い平面の中心に階段スペースを設け、そこを中心にそれぞれの住戸の環境を整える十字のバッファースペースを挟みました。
バッファーゾーンを通して、建物の中心の共用階段にまで光が溢れます。
バッファーゾーンは、土間空間になっていて日常的には自転車やスノーボードなどのアウトドア用品を置いたりして使うことを想定していますが、熱環境的には外部と住戸を繋ぐ干渉スペース(中間領域)になり、冬の厳しい気候から住人を守り、豊かな光を各住戸に届けます。
9世帯の住戸は、メゾネットタイプやロフトのある天井の高いタイプ等すべて違うプランです。
バッファースペースを挟んだ住戸どうしは、プライバシーを守られながらも、隣戸の気配を感じとれます。
とかく集合住宅ではありがちな、隣には誰が住んでいるのか分からないといったことのない様に、隣人と環境を共有して集まって住むことをもう一度問い直したいと思いました。
『新建築 2008.08号』のTEXTより抜粋
〜空間による光と断熱と隣人〜
「サッポロアパートメント」は、札幌市内の住宅地の一画に建つ。
我々は、平面計画で矩形の建物の四隅に住戸を配し、隣りあう住戸間に光を取り込むため、4つのスペースを差し込んだ。各住戸は、差し込んだスペースを介して外部からの光と換気を確保しているため、住戸の開口部を直接外壁に開けなくてもいい。外部からのプライバシーは守られ、スペースは空気の断熱層としても機能し、開口部の熱損失を抑えることが出来る。挟み込んだこのスペースは、片方の住戸がインナーテラスとして使うように計画し、冬期間に自転車やアウトドアグッズを置いたりすることができるようにした。また、もう片方の住戸には、隣戸との関係を配慮しながらも可能な限り大きな開口を設けた。これによって隣合う住人がインナーテラスを挟んでお互いの存在を認識できる。
札幌市内には、「サッポロアパートメント」と同じ規模のアパートが数多く存在するが、そのほとんどの共用スペースは狭く暗い。我々は、4つのインナーテラスから建物の中心に光を導くように計画した。つまり個人の住戸のスペースを通して共用スペースの環境を整えようという試みだ。光は一日の時間帯によっていろいろな方向から入り込むため、共用スペースに様々な光の表情をもたらし住人の生活を豊かにするだろう。
現代の集合住宅において、片廊下の標準化されたかのようなマンションは論外としても、さまざまな住戸タイプを備えた集合住宅さえも、結局そのほとんどは住人はおろか隣人の存在すら感じることがない閉鎖的な計画が多い。そういった都市の集合住宅で懸念される問題について、我々はスペースを介した気配という手段で解決できればと考えた。
「サッポロアパートメント」では、隣人や住人の気配を積極的に受け入れるという集合住宅では新しくも、本来戸建て住戸が持っている可能性に近づけたい。
まずは、住人が、インナーテラスに私物を置き、生き生きと使いこなし、中心の共用スペースにも住人の生活の気配が溢れ出すことを期待したい。
都市の解説
札幌市内には、冬の雪への対策として建物に下駄を履かせるように1階部分を持ち上げたものが多い。地下1階がRCで地表面から飛び出し、その上に二層の木造を載せるという形式のアパートはこの辺ではめずらしくない。市内の建物の屋根はフラットルーフが多く、雪を下ろさなくてもいいようにしている。そのため、住宅地の表情も三角屋根が並ぶ本州のそれとは趣が違う。