三軒茶屋の住宅 〜都市に浮かぶ〜

作品情報
TEXT
三軒茶屋の住宅 東京都世田谷区
  • 企  画:ザ・ハウス

    設計担当:納谷学、高橋正嘉

    構造設計:かい構造設計 寺門規男

    施工会社:渡邊技研 篠田千春、

         松本丈志、井末啓之

    PHOTO :吉田誠

  • 構造形式:鉄骨造 3階建て

     

    竣工年月:2004年1月

     

  • 敷地面積:60.00m²(18.15坪)

    延床面積 : 105.91m²(32.04坪)

    1階面積 : 36.00m²(10.89坪)

    2階面積 : 32.91m²(9.55坪)

    3階面積 : 36.00m²(10.89坪)

  • 掲載誌:『ARCHILABJAPAN2006』

        『Lives 2005.06/07』

        『家種 -いえダネ- 』

        『COMPACT HOUSE』

        『SIGHT Vol.22』

        『新建築 住宅特集 2004.10号』

        『MODERNLIVING155』

        『マンスリーM 06月号』

        『CCI 03月号』

        『リフォーム建築に役立つ 浴室・洗面・トイレ』

三軒茶屋の住宅 東京都世田谷区

敷地面積60㎡の土地に、6m×6m×6mの立方体を浮かべました。

立方体の中にはLDKや個室などの居室を配し、適切な高さの水平窓を使って外からのプライバシーを確保しました。黒い立方体の下は駐車スペースと趣味の部屋を、上には広いルーフデッキとスカイバスを用意しました。正方形の平面の中央には、縦に貫く階段を少し偏心させて設置して、左右の空間のヒエラルキーをつくり、建物全体の回遊性と光が貫く光井戸として機能するようにしました。

小さな住宅ですが、都心に住むことを決意した家族の物語です。

『新建築 住宅特集 2004.10号』のTEXT抜粋

東京近郊に住む人であれば、三軒茶屋の街並みがどういうものか、東京という都市の中でどのような地理的条件や環境がバックグランドとしてあるのか、ある程度イメージできるだろう。そのイメージの中の一つでもある地下鉄駅から続く不規則な商店街を抜け、低層マンションと戸建て住宅が入交じるところに、この敷地は位置する。敷地の北側と前面道路の反対側には、それぞれ3層のマンションが建ち、南側の隣地には将来同じ程度(3層)の建物が建設可能な土地が、現在はパーキングとして使用されている。そう、いずれこの住宅は3層のマンションに囲まれるのかもしれない。

クライアントは以前は東京近郊の分譲マンションに住んでいたが、職場に近い事と都市の利便性に魅かれ、将来マンションに囲われるかもしれないこの18坪程の小さな敷地を手に入れた。そして、お風呂に入りながら星を見るのが夢だと言った。

われわれは、6M×6Mの平面を2層用意し、重ね合わせた平面のほぼ中央に階段室を兼ねた縦のボイドを挿入した。ボイドによって偏芯した平面にはそれぞれ住空間の用途を割り当てている。例えば、狭い方がキッチンで広い方がリビング・ダイニングとなるように。そして、敷地周囲からプライバシーを守り、小さいながらも開放感のある明るい住空間を確保するために、外壁には内部空間の用途に応じて高さの調整をした連続する水平窓、平面を貫くボイドは反射率の高い色や透明感のある素材を使い分け、屋上階から落ちるひかりが地上階まで届くように計画した。

また、このミニマムな住宅のスケールが壊れないように、構造体をできるだけスレンダーにして、106㎜厚の外壁をその柱の外側に22㎜追い出した。22㎜のスリットが内部空間をより軽快にしてくれることを期待したのである。

小さな住宅が都市の中で成立するには、街との距離、つまり離れ方(あるいは近づき方)がより重要になるのではないかと考えている。ここでは2層の住空間を空中に持上げ、2階のリビング・ダイニングと道路との距離を確保し、プライバシーの高い寝室をその上階にした。下にできた地上階の偏芯した平面には駐車スペースとワークスペースを割り当て、屋上階には通りの街灯から頭一つ飛び出した星の見えるお風呂を用意した。屋上デッキの片隅にいや堂々と設置されたバスタブは乳白のポリカーボネート折板で包み込み、やわらかく都市を切り捨てた。この建築が竣工した夜半に屋上にあがる機会を得たが、頭一つ飛び出した都心は暗く、下の道路から想像した以上の数の星が東京の空にもあった。

そして、都市で住まうための覚悟と生き方を楽しく教えてもらった気がする。

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