多摩川の住宅 〜光の縁側とプライバシー〜

作品情報
TEXT
多摩川の住宅 東京都大田区
  • 設計担当:納谷学、山田智子
    構造設計:かい構造設計 寺門規男
    施工会社:高橋建設

  • 構造形式:鉄骨造

    竣工年月:2005年3月

  • 敷地面積:135.59m²(41.02坪)

    延床面積 : 121.00m²(36.60坪)
    1階面積 : 60.50m²(18.30坪)
    2階面積 : 60.50m²(18.30坪)

  • 受賞歴:2006年 AmericanWoodDesignAward受賞

    掲載誌 :『建築知識』
         『ディテール 2007.04』
         『新建築住宅特集 2006.07号』
         『新しい住まいの設計 2005.10号』
         『行列のできる建築家名鑑』
         『リフォーム建築に役立つ 浴室・洗面・トイレ』
         『新しい住まいの設計 2008.11号』

多摩川の住宅 東京都大田区

周囲は住宅に囲まれ、全面道路は狭く北側のため大きな開口が造りにくい環境です。

四方に開くことを諦め、シンプルな矩形の箱に光の縁側(インナーテラス)を挿入して、そこからそれぞれの居室に間接的に光を享受しようという試みです。1階には光あふれる大きな土間空間と個室、2階にはLDKと水廻りを向かい合わせ、インナーテラスに向かって全開放できるようにしました。

結果、外部の視線からプライバシーを守る光あふれる住宅ができました。外壁は深みのある表情をつくりだすレッドシダーで葺き上げ、内部の光の縁側がより際立ち豊かになるように造り込みました。

『新建築住宅特集 2006.07号』のTEXTより抜粋

都市住宅は、常にプライバシーと防犯性が問われる。一方、それとは相反する光豊かな解放性を住空間に望むクライアントは多い。

敷地は、近くに多摩川、大きな木々が生い茂る公園にほど近い。隣接する環境は、敷地前面に小さな多摩川の支流が流れ、開放的ながらも典型的な住宅地の装いをしている。けっして密集した住宅地ではないが、解放性を敷地の外側に望むなら南に庭を設けているようなプランではプライバシーが守れない。きっと建築の外側になんらかの仕掛けや装置が必要になるだろう。

そこで我々は、それを建築の外側に手段を施すのではなく、プラン自体の単純な操作による解決を試みることにした。きっとそのプランには複雑さや難解な解釈はいらない。なぜならそのややこしさは、周辺環境の伸びやかさと相反するものとなり、解放性を失うのではないかと考えたからだ。

必要なのは、単純ながらも自由なプラン。そして、閉じながらも伸びやかなで開放的な空間を手にすること。外部と内部をつなぐ縁側的な柔らかい空間によって住空間を豊かに解放できる手立てはないか。

具体的には、2層の住空間をボイド状のスペースで縦に切り分け、2つに分断されたスペースを自由にアクセスできる領域として変換させ、解放性を手に入れた。その領域は、どちらの空間にも依存もするが、独立もするフレキシブルなスペースとして還元している。スペース全体は、外部からの視線を切る型板ガラスで包み込み、上下で換気を取って空気の流れを作り、向い合うそれぞれのスペースとの境界は透光性のある可動ルーバーで光を各スペースに満遍なく柔らかく変換している。

つまり、そのスペースを外部との中間領域的空間として捕え、住戸全体の熱環境(光量や風量、換気量、温度)をコントロールできるようにしている。

また空間の関係性において、振り分けた両サイドの空間を並列的にシャッフルし、自由にアクセスできるアクティビティを確保している。

そして、ここに内包されたスペースは我々が考えた原型的な空間であり、アクティビティと熱環境のトランジットスペースと呼ぶことにした。

『建築知識』のTEXTより抜粋

ファサードデザイン

敷地は、近くに多摩川、大きな木々が生い茂る公園にほど近く、敷地前面には、小さな多摩川の支流が流れる。

周辺環境の木々と呼応するように、建築もピカピカの外壁よりも毛深い自然の素材の方が適していると考え、建築全体をレッドシダーで包み込んだ。

しかし、それだけではレッドシダーの壁が6m建ち上がることになり、街に対してあまりにも暴力的になる。

グランドレベルの玄関や設備機器等をエキスパンドメタルで一緒に包み込み、ファサード全体を自然素材と工業製品に分割することで、小気味よいスケールと建築に品格を与えたいと考えた。

外壁の事例 〜レッドシダー〜

都市部の住宅地では、外壁に木を使う機会がめっきり少なくなってきている。ここでは、キシラデコールを塗布した幅の違うレッドシダーを重ね張りにして、周辺環境の豊かさを住宅に延長させた毛深い建築にしたいと考えた。

光を通す間仕切り事例 〜テント生地〜

住宅全体の環境を整えるために設けたトランジットスペースに、そこに取込んだ光を両サイドの居室に届ける素材としてテント生地を選択した。耐水性が強く、光を拡散する建具として住宅全体の換気も担っている。

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