山王の住宅 〜擁壁の上の台形〜

作品情報
TEXT
山王の住宅 東京都大田区
  • 設計担当:納谷学、島田明生子

    構造設計:長坂設計校舎 長坂健太郎

    施工会社:剛保建設 義本範人

     

  • 構造形式:地下1階RC、地上2階木造

    竣工年月:2012年7月

    PHOTO :吉田誠

  • 敷地面積:87.64㎡(26.51坪)

    延床面積:91.32㎡(27.62坪)

    1階床面積:43.33㎡(13.10坪)

    2階床面積:36.07㎡(10.91坪)

    ロフト床面積:17.31㎡(5.23坪)

  • 掲載誌:『住宅特集 2013年4月号』

山王の住宅 東京都大田区

高低差が3Mほどの擁壁の上に住宅を計画しました。

敷地形状は変形した台形。

必要な矩形の部屋を台形の中に入れ子状に内包させ、その隙間を上下の階をつなぐ吹抜けにしたり、ロフトを設けました。

余白が住宅内に光と風を導き、豊かさをもたらします。

『住宅特集 2013年4月号』のTEXTより抜粋

〜半入れ子の距離感〜

JR大森駅から西へ、住宅地をやや奥へと長い坂道を上がりちょうど登りきった辺り、そこから狭い道はつづれ織りに一気に下って行くのだが、敷地はその丘の終わりの際にある。

変形した台形のような敷地の西側の一辺が接道し、前面道路との高低差は3〜4m。われわれの目標は、この高低差を克服し、視界が開けるだろう丘の上に居を提供することである。そこで、擁壁の一部をえぐり駐車スペースに割当てて擁壁を造り、その擁壁の上にいくつかの法的斜線をクリアする木造2層の変形立方体の箱を載せ住宅としての気積を確保した。その変形立法体の内側にひとまわり小さい直方体の箱を組み込むと内部には三角形の立体の隙間ができる。ちょうど立体空間の半入れ子の状態である。立体の隙間は空間の余白として、内外部の空間のつなぎとして使いたい。例えば、直方体の上部の隙間はおおらかな天井を備えたリビングとして、平面の隙間はドラマティックな吹抜けを持つ土間となり、玄関や和室はもちろんリビングやロフトを立体的に多様な関係を生み出しながら繋げられるのではないか。また、隙間は隣り合ういくつかの空間の共用空間でもあるため、複数の空間の平面的な広がりを同時に提供する。その広がりは、和室や浴室、リビングに奥行き感を与え余白として上下の見えない空間さえも予感させる。さらに立体の隙間は内部と外部を緩やかにしきり繋げる干渉空間として機能する。内部空間がダイレクトに外部に面するのではなく、立体の隙間を通して外部へ繋がる。外部からは、内部の空間と一見無秩序に開けられたかのような開口から住宅内部の関係が見える。壁の真中に立ち、お互い見えない両側の部屋がそこからは見えるような舞台装置のような不思議な関係である。そしてその内部の隙間とコントロールされた開口の無秩序さが、外部と内部の関係性を単なる距離の問題としてではなく、空間の距離感をコントロールできるのではないかと考えた。

〜アクティビティーを生み出す家具〜

「山王の住宅」は立体多角形の気積の中に整形の箱を入れることによって生まれる隙間の空間をテーマに設計を試みた。本棚などのいくつかの家具を、その立体の隙間に組み込むことによって、隙間が単なる空間としての吹抜けではなく、生活機能を持つような実用的でアクティビティーがより溢れる空間を実現する手段として考えた。なので、本棚は一箇所にまとめてライブラリーなどのように空間を限定するのではなく、なるべく分散させることで家全体のいたる所で読書という行為も分散できるように計画した。デザインは極めてシンプルで使いやすいように心がけ、隣接するスペースでのアクティビティーを想像して場所と大きさを決定した。

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