新丸子の住宅 〜座の生活を楽しむ〜

作品情報
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新丸子の住宅 川崎市中原区
  • 設計担当:納谷学、名倉幸雄
    構造設計:かい構造設計 寺門規男
    施工会社:株式会社 大山組

  • 構造形式:RC扁平ラーメン構造(一部鉄骨)

    竣工年月:2002年5月

  • 敷地面積:171.62m²(51.91坪)

    延床面積 : 123.35m²(37.31坪)
    1階面積 : 71.55m²(21.68坪)
    2階面積 : 51.80m²(15.70坪)

  • 受賞歴:2003年 あたたかな住空間コンペ新築の部 東京ガス賞

    掲載誌:『こんな家に住みたい No.09』
        『モダンリビング No.146』
        『テレビ朝日系 渡辺篤史の建もの探訪 2002.11.30放送』
        『エスクスファイア 12月号』
        『新しい住まいの設計 2005.10号』
        『行列のできる建築家名鑑』

新丸子の住宅 川崎市中原区

新丸子商店街を抜け住宅地に入ってすぐ東南の角地にこの敷地があります。

駅に近いため人通りが多く、単に南に開放した住宅ではプライバシーがなくなってしまいます。そこで、敷地外周に半透明のフェンス(フィルター)をかけて、プライバシーが守られ光が広がるように敷地全体を包み込みました。

その上で、1階にプライベートスペース、リビング・ダイニング・キッチンを2階にして一日中陽当たりのいい住環境を用意しました。

また、イスやテーブルの生活ではなく座の生活をしたいというクライアントの要望で、2階のリビング、ダイニングは床を掘り下げています。

駅に行き交う人のシルエットは半透明のフェンスに写り込み、いわゆる壁に囲われたような閉鎖感はありません。

街の賑わいと個人住宅の境界を探り、座の生活を実現し、閉じるのでもなく開くのでもない外部の中間領域によって生活を豊かにする提案です。

『エスクスファイア 12月号』のTEXTより抜粋

都市型住宅

住宅がある敷地に建つ時、その建ち方によって大なり小なりその敷地との関係が生まれます。その敷地の在り方は、その地域での関係と関わっているのですから、当然建てられる住宅もおのずとその地域とどう関わるのかを問われます。たとえそれが田園風景の中であろうと、密集した住宅地であろうと。

「新丸子の住宅」は駅前商店街の脇を少しはいった商業地域にあります。敷地前の通りは駅に向かう人と買い物に行き交う人で、住宅地の割に人通りが多いのです。

施主の要望は、そんな環境の中で南に開放的な住宅を求めていました。

田園都市に建つ住宅のように解放性を求めるのは、商業地域の中に建つ住宅の答ではないし、コートハウスのように閉じた世界をつくるというのは、すでに答が出ています。私達はもう少し街と関係を持ちながら、プライバシーも守れる都市型住宅の答を出したかったのです。

では、「新丸子の住宅」は、施主の要望をかなえながら、どう建つのか。

そこで、建物をオブラートで包むように、柔らかな皮膜で被うことをイメージしました。都市で住まうことは、プライバシーと解放性のせめぎあいのところがあります。一方を優先させれば一方が失われます。同時に街や地域との関係もその度合いに密接に関係してくるのです。

建物を半透明の皮膜で包むことで、内側からは柔らかなひかりと一緒に街の気配が間接的に伝わり、通りの様子を感じ取ることができます。また外からは、特に夕暮れ時など内側のあかりが漏れてきて、街行く人に安心感を与えます。

閉じた空間でも、きちんと街と対話できるのではないかと考えました。

この住宅は、周りの環境と施主の要望の中で模索した結果として生まれた都市型住宅の答のひとつでしかありません。都市は、それ自体多様性に富み、そこに住宅を建てるということは一義的な答ではなく、さまざまな条件の中で成立するものなのです。

これからもいろいろな環境の中で住宅を建てることになると思います。そこには、また別の答が待っているのかもしれません。

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