木挽町御殿プロジェクト 〜柔らかい境界〜
-
設計担当:納谷学、太田諭
施工会社:田工房 内田晃晴
-
工事範囲:鉄骨10階建てビルの6階
竣工年月:2005年4月
-
延床面積:121.88m²(36.87坪)
-
受賞歴 :2005年 第26回INAXデザインコンペ部門賞 水まわり空間
掲載誌 :『新建築 2005年5月号』
『66人の建築家がつくった「たったひとつの家」』
『Esquire 2007年4月号』
『THE COLD JCB会員機関誌』
『モダンリビング No.165 MARCH2006』
『インポートデザインハンドブック2006』
『DesignLiving spring2006』
元ビジネスホテルだった10階建てビルのワンフロアを住宅にリノベーションするプロジェクトです。
矩形のビルの中央付近にEVと避難階段のコアがありました。片方をLDKにして開放的な空間に、もう片方を水周りと個室といったプライバシーの高い空間としています。
LDKのそれぞれのスペースは、バーティカルブラインドやカーテンなどを柔らかい境界として使っています。この柔らかい境界は、閉じたり、開いたり、繋がったり、仕切ったり、羽根の角度を変えたりしながら日常のデリケートな生活を受け止めますが、この家の飼い犬だけは、ブラインドやカーテンの下を自由に行き来できます。
『新建築 2005.05号』のTEXTより抜粋
ゾーンの連続と多様性
木挽町に間口約8m、奥行き約17m、8階建てのビルがある。このビルの前オーナーは、数フロアをビジネスホテルとして運営していたが、我々のクライアントは、ビル全体をフロア毎にコンバージョンしていく木挽町御殿プロジェクトの一環として、今回はそのワンフロアを住宅として再生することにした。
このビルのほぼ中央にはエレベーターと直通階段があり、長方形の建物を大きく二分する。我々は、その片側を寝室や浴室などの水周りを含むプライベートゾーン、もう片方をリビングを含むパブリック性の強いゾーンとして計画した。プライベートゾーンでは、二つの寝室の間に水周りのゾーンを挟み込む事によって、個々の寝室のプライバシーを確保し、より独立性の高いものにしている。また、パブリック性の強いゾーンでは、大きくワンルーム的にゾーンを捉えているが、そのゾーンの中にリビング、食堂、台所といった性格の強い3つのゾーンを設定した。
そして、フロア全体の天井高を2000mm弱に抑え、3つのゾーンを300mmの織上げ天井とその織上げ天井に沿う緩やかな境界によってゾーンの二重化を図っている。大きなゾーンの中に小さなゾーンを入れ子状に配置したのである。境界は、ゾーンによってバーティカルブラインドやカーテンなどの緩やかな素材を使い分け、それぞれのゾーンを閉じたり、開いたり、ゾーンの領域をデリケートに変換させることができる。また、小さなゾーンとゾーンの間には、どちらにも属さないもう一つの中間的なゾーンが隙間のように生まれる。つまり、ゾーンの二重化と同時にそれぞれのゾーンの連続化、その小さなゾーンの隙間によるゾーンの多様性を導き出すことで、シンプルなワンルームをより繊細で多様な空間へと変換できると考えた。
繊細で多様なワンルームは、クライアントの使い勝手や気分に十分に応えられるだろうし、床上350mmでカットされた緩やかな境界をもう一人のクライアントであるここの飼い犬だけが自由に往来できる。