西新井の住宅 〜柔らかい境界による自立した生活〜

作品情報
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西新井の住宅 東京都足立区
  • 設計担当:納谷学、山田智子、津田野恵

    施工会社:田工房 内田晃晴

    家具工事:Y・クラフト 吉田靖彦

  • 改装範囲:鉄骨3階の既存建物の1・2階

         1階を住宅、2階を賃貸住宅

    竣工年月:2006年2月

  • 延床面積 : 153.59m²(46.46坪)

    1階面積 : 79.63m²(24.09坪)

    2階面積 : 73.96m²(22.37坪)

  • 受賞歴  : 第9回『あたたかな住空間デザイン』

         コンペ住宅デザイン部門 ブルー&グリーン賞

    掲載誌 :『新建築 住宅特集 2007.04号』

         『日経アーキテクチュア2007.06.25号』

         『NA選書 住宅プラン図鑑』

         『建築知識』

         『ドリーム』

西新井の住宅 東京都足立区

車いすの生活を余儀なくされた家族の住宅です。

健常者と同じ生活をストレスや肉体的な負担なくできるように、3階建ての住宅の1階を段差がなく室内の全ての場所に自由に行けるように計画しました。

車椅子からも家の中全体が見渡せるように家具の高さを決め、必要に応じて部屋を閉じれるように縦型のブラインドを使って開けたり閉じたり、光やプライバシーを彼女自身が緩やかにコントロール出来るようにしました。

料理好きな彼女に合わせたキッチン、一人で入れるお風呂と一人で使えるトイレ、手が届くスイッチ、球交換出来るように低く設置した照明器具。

緩やかな境界によって、彼女が健常者以上に自由に豊かに自立できる住宅を目指しました。

2階は、賃貸住宅にリノベーションしました。

『新建築 住宅特集 2007.04号』のTEXTより抜粋

〜やわらかい境界〜

既存の鉄骨ALC3階建ての1階をクライアントの住宅に、2階部分を賃貸住宅としてリノベーションすることになった。もともと1・2階は店鋪だったため、上下階を繋ぐ内部鉄骨階段があった。われわれのリノベーションはこの鉄骨階段を取り除き、1・2階を独立させることから始まった。

1階では、最初にこの住宅のどこにいても住戸全体を見わたせることができ、防犯上の死角をつくらない大きなワンルームを用意した。その上で、自由な動線、ちょうど8の字が連続してサ—キュレーションできるような行き止まりのない計画を心掛けた。

しかし、ただのワンルームでは、クライアントのプライバシーがなくなってしまう。そこで、ワンルームながらも緩く領域をつくり、自由に境界を変化させプライバシーを守ることができる方法を模索した。

具体的には平面全体を並列に4分割し、その内の2つのゾーンだけを造作家具と折上げ天井により仕上げた。つまり、半分だけ仕上げて全体を成立させた。そして、仕上げた2つのゾーンの中に複数の小さな領域を構成した。

また、境界を変化させる素材として寝室には遮光性の高いバーティカルブラインド、ミーティングルームにはレース状の柔らかいカーテンを使用した。

バーティカルブラインドもカーテンもいずれも直接窓に取り付けて光をコントロールするのではなく、かといって間仕切りや壁などのように空間を強く固定するのでもなく、むしろ空間を自在にコントロールするやわらかい境界をつくり出す素材として使用している。

2階では、既存の偏芯した中央の柱を中心に平面を田の字に4分割し、4つのゾーン(領域)を想定した。具体的には、4つのゾーンをその面積と隣合う関係性においてリビング・ダイニング、キッチン、水回り、寝室と振分けた。そして、それぞれのゾーン(領域)の境界に、必要なものを家具的に配置する事で緩やかな境界をつくり、それぞれのゾーンのやわらかい関係を生み出している。

どちらのリノベーションもワンルームの中にいくつかの小さな領域を生み出そうという試みだが、その手法はいずれも最小限の仕掛けで最大限の効果を得ることを目指している。リノベーションは、既存の建物の特質を読み込み、その潜在している空間の魅力を最大限に活かせた時、意味をなすように思う。

『建築知識』のTEXTより抜粋

光を通す間仕切り事例 〜レースのカーテンとバーティカルブラインド〜

空間を変換する素材として遮光性のバーティカルブラインドとレースのカーテンを使用した。いずれも直接窓に取り付けて光をコントロールするのでも壁のように空間を強く固定するのではなく、むしろ空間を自在にコントロールする柔らかい境界を目指している。

『ドリーム』のTEXTより抜粋

キッチンは、料理好きなクライアントが車椅子に乗ったままで鍋の中を見れたり、作業がしやすいように、高さを調整しました。また、浴室は彼女が車椅子から降りて体を洗い、浴槽に入る一連の動作がコンパクトにスムーズに行えるように計画しています。

このように、我々が提案した空間が病院のような施設のようになることなく、障害者が健常者となんら区別のない自由な空間を手にいれることが可能であり、彼女のみならず障害者への大きな希望となることを望みます。

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